
本研究室では、森林の生物多様性と生態系機能に着目し、森林を取り巻くさまざまな環境変化が生態系に与える影響を研究しています。ニホンジカの高密度化、森林管理の変化、人間活動、気候変動などを背景に、野外調査・野外実験・ゲノム解析・統計モデリングなどを組み合わせた多面的なアプローチで研究を進めています。
私たちが関心を持っているのは、森林で生じている変化を記述することだけではなく、その背後にある生態学的なメカニズムを理解し、その知見を保全や管理の実践に結びつけることです。森林の健全性を支える多様な生物の役割を明らかにし、カーボンニュートラルやネイチャーポジティブの実現といった社会課題の解決に貢献することを目指しています。
森林の生物多様性の生態学
森林には、土壌中の微生物から林床の植物や哺乳類、さらには林冠の昆虫や鳥類に至るまで、多様な生物が生息しており、陸域の生物種の約8割が森林に依存しているとされています。これらの生物は相互に関わり合いながら多様な生態系機能を発揮し、それが人間社会を支える基盤となっています。森林生態学は、このような森林の多様な生物の分布や共存、生態系機能の関係を理解しようとする学問です。
森林は一見すると安定して見えますが、実際には気候変動、ニホンジカの高密度化、土地利用の変化、森林資源のアンダーユースなど、複数の環境変化の影響を同時に受けて、絶えず変化しています。本研究室では、森林に生息するあらゆる生物の集団を対象として、「大きな環境変化が森林生態系にどのような影響を与えるか」という問いに関心を持ち、研究を進めています。その変化の仕組みを理解することは、森林の保全・再生・持続的利用を考える上で欠かせません。大きな環境変化が森林の生物多様性と生態系機能にどのような影響を与えるのかを、生物群や空間スケールを横断して明らかにしたいと考えています。
現在の研究プロジェクト
- ニホンジカによる植生衰退が森林の生物多様性に及ぼす影響
- 森林の植物-土壌フィードバックにおける土壌微生物の役割
- 人間社会と野生動物の軋轢の緩和に向けたアプローチの提案
- 森林の生態系機能を活用したカーボンニュートラルへの貢献
- 鳥類群集の機能的冗長性が森林のレジリエンスを高める条件
- 山岳地域に固有な動植物の保全に向けた気候変動への適応策
ニホンジカによる植生衰退が森林の生物多様性に及ぼす影響

ニホンジカの増加により、森林の下層植生の減少や上層木の枯死が進み、森林構造そのものが大きく変化しています。こうした変化は、植物だけでなく、昆虫・微生物・高次捕食者など多様な生物群に波及し、生態系機能や物質循環にも影響を及ぼします。研究室では、シカ排除柵を広域に設置し、植物・動物・微生物の多様性と相互作用の変化を長期にわたって調べ、その影響の広がりと回復の条件を明らかにしています。
森林の植物-土壌フィードバックにおける土壌微生物の役割

植物は、落葉や根の働きを通じて土壌環境を変え、その変化が次の世代の植物の成長や競争に影響を与えます。この植物-土壌フィードバックの背後には、土壌微生物の多様性や機能の変化が深く関わっていると考えられます。研究室では、樹木実生の栽培実験や土壌の移植実験、メタゲノム解析を通じて、その仕組みを解明し、植生回復や天然林誘導への応用を目指しています。
人間社会と野生動物の軋轢の緩和に向けたアプローチの提案

農業被害や住宅地への出没など、野生動物と人間社会の軋轢は深刻な社会課題になっています。その背景には、野生動物の個体数の増加だけでなく、人工林化や里山の変化、人の活動様式の変化など、自然環境の構造的変化があると考えられます。研究室では、カメラトラップや環境DNA分析などを用いて、農山村から森林にわたる野生動物の行動や生息地利用を明らかにし、人と野生動物のよりよい関係を築くための方策を探っています。
森林の生態系機能を活用したカーボンニュートラルへの貢献

森林は重要な炭素吸収・貯留の場であり、とくに土壌炭素は長期的な炭素ストックとして大きな意味を持ちます。人工林の管理状態は、植生構造や有機物供給、土壌水分、微生物分解などを通じて、土壌炭素の蓄積量や安定性に影響します。研究室では、人工林の管理状態と土壌炭素蓄積の関係を定量的に評価し、炭素蓄積を高める持続的な森林管理のあり方の提案を目指しています。
鳥類群集の機能的冗長性が森林のレジリエンスを高める条件

森林の鳥類は、昆虫の捕食、種子散布、樹洞形成など、さまざまな生態系機能を担っています。これらの機能が安定して維持されるためには、同じ機能を複数種が担う「機能的冗長性」が重要であると考えられます。研究室では、森林の撹乱や管理が鳥類群集の構造と機能に与える影響を明らかにし、機能的冗長性と安定性が、どのような条件で森林のレジリエンス(回復力)を高めるのかを明らかにしようとしています。
山岳地域に固有な動植物の保全に向けた気候変動への適応策

山岳地域には、寒冷な気候や特殊な環境条件に適応した固有性の高い動植物が生息しています。こうした生物は気候変動の影響を受けやすいため、気温上昇や極端気象の増加により、生息適地の縮小や分断が懸念されています。研究室では、野外調査とゲノム解析を組み合わせ、山岳生態系における種の分布変化や脆弱性を評価し、将来を見据えた適応策と保全の方向性を検討しています。
